しかし、全くないと言い切るのも逆に不安になると思いますので、下記に代表的なものをご紹介します。
1)家族信託の実務に精通した法律専門職が少なすぎる
弁護士・司法書士・税理士・行政書士等の法律専門職の中でも、全体の2割か3割程度しか
家族信託について的確な理解をしている方はいません。
まして、家族信託をお客様に提案・実行できている専門職は、恐らく全体の数%いるかどうかです。
まさにこれが大きな問題です。
ある法律専門職からお客様に対して、家族信託を活用した認知症による資産凍結対策・円満な資産承継対策の提案がなされたとします。
お客様が別の法律専門職に対して“セカンドオピニオン”を求めたところ、その法律専門職が家族信託のことを全く知らなければ、その提案自体を否定することも普通にあり得ます。
つまり、家族信託に精通していない法律専門職が抵抗勢力となり、良策の提案を破棄される可能性があるのです。
ここで言う「関係者」は、法律専門職だけはなく、金融機関の担当者や役所の高齢者福祉課・障害者福祉課・社会福祉協議会の担当者、ソーシャルワーカー・ケースワーカー・・・など、老親の生活支援等にかかわる多くの方々を意味しておりますが、これらの方々が「家族信託」を知らなすぎるという残念な現状が大きな弱点といえます。
また、さらに言うと、家族信託の実務に精通をしていない専門職が「家族信託の専門家」「民事信託専門」等を名乗って、質の低いコンサルティング(お客様のニーズも掌握せずに、信託契約書の雛型に当事者情報を当てはめただけの信託契約書の作成業務など)を実行していることもあるようです。
お客様側から見れば、どの専門職が「本物」か、見極めることは非常に困難です。
2)初期費用がかかる
家族信託の検討・実行に際しては、ご家族全員に招集をかけて「家族会議」を開催していただくことを前提に、そこに何度でも同席して、家族・一族の“想い”・希望を擦り合わせ、最適な方策を検討するプロセスを経る必要があります。
従いまして、信託契約書1通につき金〇万円といった報酬体系ではなく、信託財産として子が管理を担う財産額等に応じた「コンサルティング報酬」を頂戴しております。
コンサルティング報酬に加え、信託契約や遺言を公正証書にする際の公証役場の手数料がかかります。
また、信託財産に不動産があれば、受託者の名前や信託契約の内容を登記簿に反映させる「信託登記」の費用として、登録免許税や司法書士の登記手続き報酬がかかります。
これら全てを合算すると、家族信託の検討・実行段階で、信託財産の評価額の1~2% を総費用として、概算の予算を想定していただく必要があります。
ただし、一度家族信託の検討・実行まで完遂すると、原則的には、以後の家族信託(受託者)による財産管理についてのランニングコストはほぼかからないことになりますので、十数年から何十年と世代を超えた財産管理と資産承継の仕組みを作ると思えば、このコストはむしろ安価であると実感して頂くご依頼人の方が多いといえます。
多少余談になりますが、家族信託とよく検討される財産管理の仕組みとして、「成年後見制度」があります。
もし、法定後見制度(成年後見人、保佐人、補助人)を利用する場合で、専門職が後見人に就任する場合(「職業後見人」という言い方をします)は、月額金2~5万円の「後見人報酬」がランニングコストとして、被後見人が亡くまでずっと続くことが想定されます。
法定後見を利用する場合で、家族が後見人に就任(「親族後見人」と言います)できたが「後見監督人」が就任する場合や任意後見契約を発動する場合(つまり任意後見監督人が就任する場合)は、月額金1~2万円の「後見監督人報酬」がランニングコストとして発生します。
つまり、家族信託の実行に際してかかる初期コストと、成年後見制度を利用せざるを得なくなり、いつまでかかるか分からないランニングコストを背負う負担・リスクを比較してみても、決して家族信託にかかわるコストが高額であるということにはなりません。
3)税務会計処理の手間
信託財産に収益不動産(賃貸アパートや貸家、借地、駐車場など)がある場合、毎年の確定申告の手続きに際して、申告書類が通常よりも増えるという手間の問題があります。
確定申告を税理士にお願いしている方は、その書類作成の手間が増える分、税理士報酬が多少値上げになるかもしれません。
また、確定申告書とは別に、毎年1/31までに昨年1年分の収支を計算した「信託の計算書」を税務署に提出すべきという決まりもありますので、申告の手間が多少増えることは認識が必要です。
なお、保有不動産の一部を信託財産に入れた場合、所有権財産たる不動産からの所得と信託財産たる不動産からの所得の「損益通算」の問題も理解しておく必要があります。
つまり、信託財産たる不動産からの年間を通した所得が収支マイナス(赤字)だった場合、その年間収支の赤字は、無かったものとみなされますので、所有権財産たる不動産所得と損益通算して課税対象額を減らすことができません。
無かったものとみなされるので、当該赤字を翌年に繰り越すこともできません。
この損益通算不可のポイントが、実務上どこまで影響するか分かりませんが、一応これも家族信託のリスク・弱点だと認識頂くと良いでしょう。