事例
X(80)は、2世帯住宅で長男A家族と暮らしています。重度の認知症になった妻Y(74)は老人ホームに入所中です。Xの推定相続人は、妻Y、長男A(50)、長女B(48)、二男C(45)の4人です。
Xの資産は、自宅と賃貸アパート、預貯金ですが、自分が一番最初に亡くなったら、妻Yの介護費用に充てるため、全ての財産を妻Yに相続させたいと考えています。
また、妻Yの死後は、同居している長男Aに自宅を遺し、地方に嫁いだ長女Bには預貯金等の金融資産を遺し、二男には賃貸アパートを遺したいと考えています。ただ、それぞでの財産評価額が均等ではないので、必ずしも公平感のある相続が実現できるかは難しいです。
なお、妻Yは自分では何もできないので、妻Yが生きている間の財産管理・入所費用の給付等の仕組みを安心できるしっかりしたものにしたいというのがXの希望です。また、Xは、妻Yの死後の遺産分割で無用な争いが生じないかについてもXは心配しています。
家族図
現状の問題点やリスク
①認知症の妻Yは、遺産を相続しても自分で財産管理ができない
②もはや遺言の書けない妻Yの死後に、遺産分割が難航する恐れがある
問題点やリスクに対する希望
①⇒Xの死後、Xの遺産を受け取った認知症の妻Yの財産管理を万全にしたい
②⇒妻Yの死後、遺った財産について兄弟間で“争族”が起きないようにしたい
解決策
(1)成年後見制度の代用としての財産管理
Xは、自宅や賃貸アパート、現金を信託財産とし、長男Aに管理・処分を任せる旨の信託契約を締結することで、Xの老後の財産管理に加え、X亡き後第二受益者となる妻Yの財産管理を継続的に担うことができます。これにより、実質的に成年後見人による財産管理の機能を果たすことができます・・・問題①を解決
(2)遺言の書けない妻に代わり、妻亡き後の遺産分割を指定
X及び妻Yが死亡したら信託契約を終了させ、その時点で残っていた財産のうち、自宅は長男、金融資産は長女、賃貸アパートは二男に承継させる旨を信託契約の中で定めておくことができます。これにより、遺言の書けない妻に遺産を残すリスクを解消し、子同士が遺産をめぐり争う事態を予防できます・・・問題②を解決
信託設計イメージ図
信託設計の概要
委託者:X
受託者:長男A
受益者:①X ②妻Y
信託財産:自宅・アパート・現金
信託期間:X及び妻Yの死亡まで
残余財産の帰属先:
・自宅は長男A
・賃貸アパートは二男C
・金融資産は長女B
その他ポイント
・通常の相続や後見制度の機能を一元化
通常の相続や成年後見制度では、信託のように≪財産管理機能≫と≪2次相続以降まで踏まえた遺言機能≫を併せ持つことができません。信託契約ならば一本の契約で、上記2つのニーズを実現できます。
・場合分けによる指定で臨機応変に公平性を実現
XやYの介護費がかさんで金融資産が大幅に減少したり、自宅を売却するなどして、当初想定していた財産の遺し方ができない事態も想定して、「金融資産が○○円を下回った場合は・・・」、「自宅を売却している場合は・・・」というような、3兄弟が不公平にならないような条件付の残余財産の帰属先規定を設けることも可能です。
家族信託の典型的活用事例 10
- 事例1. 認知症による資産凍結を回避しつつ相続税対策を完遂したい
- 事例2.子のいない長男夫婦を経由しつつ財産を確実に孫(直系)に渡したい
- 事例3.認知症の妻に財産を遺した上でその次の資産の承継者も指定したい
- 事例4.唯一の不動産を兄弟で平等相続させつつ将来のトラブルも防ぎたい
- 事例5.共有不動産を巡るトラブル防止策~兄弟で共有する不動産の塩漬け防止~
- 事例6.中小企業の事業承継対策と大株主の認知症対策
- 事例7.株式を後継者に生前贈与しながらも経営権を保持する事業承継策
- 事例8.空き家となる実家の売却と売却代金の有効活用をしたい
- 事例9.遺言の書換え合戦を防ぎ生前の遺産分割合意を有効に
- 事例10.親なき後も障害のある子を支えつつ円満な資産承継を実現したい