事例
X(75)は5階建マンション1棟を所有し、その最上階に一人で住んでいます。将来は、長男A(48)・二男B(45)・三男C(42)の三人に平等に相続させたいと考えていますが、子どものうち誰か一人に当該不動産を単独相続させると、それに見合うだけの代償資産(現預金、有価証券、生命保険等)がないので、公平感のある遺し方ができません。
Xは、マンション一棟の売却または区分所有権化して部屋の一部を売却することには反対しています。
Xは、マンションの管理を長男Aの家族に任せるつもりですが、約15年後には、老朽化に伴う建替え等の問題が出てくる見込みがあります。
家族図
現状の問題点やリスク
①不動産を子に3等分で共有相続させると、孫の代には共有持分が細分化されて、管理や処分が非効率になる恐れがある
②共有者間の方針がまとまらなければ、最悪の場合、資産が塩漬けになる恐れがある
問題点やリスクに対する希望
①⇒平等相続を実現しつつ、不動産管理は円滑かつ負担軽減をしたい
②⇒孫の代になっても資産を塩漬けさせることなく、有効活用して欲しい
解決策
(1)目の黒いうちに賃貸経営を任せてみる
Xは、今後の賃貸管理と生活費等の金銭管理を長男Aに託すべく信託契約を締結します。これにより、元気なうちから、賃貸借契約の新規締結・更新・解除、滞納家賃の督促、退去後のリフォーム、建物全体の修繕などをすべて長男Aに託して、賃貸経営のノウハウの伝授を図ると共に、経済的な利益は引き続きXが受け取れます。
(2)賃貸は一元管理、利益は平等分配
X死亡後は、第二受益者を3兄弟に指定しておくことで、管理は受託者たる長男Aに一元化しつつ、賃貸収入は兄弟で3等分できます。長女や二男は、適正な賃貸経営に基づく利益配当をもらっていれば、賃貸経営に口を出すことはできません・・・問題①を解決
(3)承継者やその人数に影響を受けない財産の管理・処分
不動産の所有権を親族で持ち合うのとは異なり、将来的に長男や長女や二男が亡くなって各人の受益権持分がさらに細分化されても、直接的に賃貸経営に影響はなく、機動的な賃貸経営や場合によっては売却処分もスムーズにできます・・・問題②を解決
信託設計イメージ図
信託設計の概要
委託者:X
受託者:①長男A → ②長男の子などを信託監督人が指名
受益者:①X → ②長男A・二男B・三男C (受益権割合は各3分の1)
信託監督人:司法書士Z
信託財産:マンション一棟・修繕積立金や敷金相当の現金
信託期間:受託者と受益者、信託監督人全員の合意で終了するまで
残余財産の帰属先:信託終了時の受益者
その他ポイント
・不動産を共有にするとどんな問題が生じるか?
通常の所有権財産としての不動産を兄弟で共有にすると、共有者全員の同意・協力が無ければ、その不動産を売却したり、建替えたりすることはできません。共有者の中に一人でも、反対する者がいたり、行方不明の者がいたりすれば、売却や建替えは難航し、最悪の場合、賃貸はできても売却処分や建替え等はできなくなります。
・信託契約の終わらせ方
将来のどこかで、信託財産としてマンション1棟が存続するうちに信託契約を終了させると、結局信託終了時点の複数の受益者がそのまま共有者として所有権財産を持つことになります。つまり、これでは共有問題の先送りに過ぎず、根本的な解決にはなりません。現実的な信託の終わらせ方としては、 「マンション1棟を全て売却し、換価後の金銭を受益者全員に分配して終了する」、「マンションを区分所有化した上で信託を終了させ、各受益者がそれぞれが独立した区分所有建物を単独所有する」、「受益者のうちの一人が他の親族の持つ受益権を買い取り、単独の受益者になった段階で信託を終了する」などの選択肢が考えられます。いずれにしても、最終的なゴール(信託の終わらせ方)については、ある程度見通したうえで、家族信託の導入をするべきです。
家族信託の典型的活用事例 10
- 事例1. 認知症による資産凍結を回避しつつ相続税対策を完遂したい
- 事例2.子のいない長男夫婦を経由しつつ財産を確実に孫(直系)に渡したい
- 事例3.認知症の妻に財産を遺した上でその次の資産の承継者も指定したい
- 事例4.唯一の不動産を兄弟で平等相続させつつ将来のトラブルも防ぎたい
- 事例5.共有不動産を巡るトラブル防止策~兄弟で共有する不動産の塩漬け防止~
- 事例6.中小企業の事業承継対策と大株主の認知症対策
- 事例7.株式を後継者に生前贈与しながらも経営権を保持する事業承継策
- 事例8.空き家となる実家の売却と売却代金の有効活用をしたい
- 事例9.遺言の書換え合戦を防ぎ生前の遺産分割合意を有効に
- 事例10.親なき後も障害のある子を支えつつ円満な資産承継を実現したい