事例
地主のX(88)は、アパートや貸家、駐車場などを所有している。Xの推定相続人は、既婚だが子のいない長男A(63)と既婚で子がいる二男B(60)の二人です。
Xは自分が死んだら、同居する長男Aに大半の不動産を承継させたいと希望しています。加えて、長男の嫁Yが働き者でいつも世話をしてくれているので、長男Aの死後は、遺される嫁Yが困らないようにしたいと考えています。
家族図
現状の問題点やリスク
子のいない長男に大半の不動産を遺すと、X、長男A、嫁Yの順番で相続が起きたときに、嫁Yに渡ったX家の不動産は、嫁Yの死亡時に嫁Yの実家側(嫁Yの親や兄弟など)に流出してしまう。
問題点やリスクに対する希望
長男に先祖からの不動産を遺すことに加え、誠実な嫁Yの生涯の生活が困らないようにしたいが、同時に、亡くなる順番を問わず、先祖代々の資産を他家へ流出させず、Xの家系である孫Zに確実に引き継がせたい。
解決策
(1)信託契約により世代を超えた長期的な財産管理を実現
Xは、長男Aと信託契約を結び、主要な不動産を信託財産として、Xの元気なうちから不動産の管理・活用を長男Aに託します。X死亡後も信託契約は終了させず、“長子相続”(長男家系に家産を相続させること)として、長男Aが第二受益者となり信託財産を引き継ぎます。それと同時に、管理を担う受託者の地位を長男Aから孫Zに引き継がせることで(受託者=受益者=長男Aとなると信託が1年後に終了してしまうので)、1つの信託契約で親と子の生涯にわたる財産管理の道筋を作ることができます。
(2)受益者連続型信託で、親本人が望む資産承継を実現
「X→長男A→嫁Y→孫Z」という、Xが望む家産の承継の流れを確実なものにすると同時に、孫をも巻き込んでの他家に家産を流失させるずに守り抜く仕組みを構築できる・・・問題を解決
信託設計イメージ図
信託設計の概要
委託者:X
受託者:①長男A(Xが亡くなるまで)→ ②孫Z(Xの死後)
受益者:①X → ②長男A → ③長男の嫁Y
信託監督人:司法書士甲
信託財産:所有不動産全て及び現金
信託期間:X、長男A、嫁Y全員の死亡時まで
残余財産の帰属先:孫Z
ポイント
・通常の相続では実現できない資産承継
通常の相続では、嫁Yと孫Zが養子縁組しない限り、自動的に孫Zに財産を渡すことはできません。最終的に孫Zに財産を承継させるには、嫁Yにその旨の遺言書を書いてもらう、死因贈与契約を締結するなど嫁Yの全面的な協力が必要となります。一方、信託であれば、嫁Yの意思や承諾を要せず、Xが望む財産の継がせ方を単独で形にすることができます。
・遺留分の問題
嫁Yに渡った信託財産については、嫁Yの死後、最終的に孫Zに所有権の財産として引き継がれることになります。この際、嫁Yに再婚した配偶者や連れ子、両親がいる場合は、嫁Yの法定相続人の権利として「遺留分」を孫Zに対して請求できるかという問題があります(ちなみに、嫁Yの兄弟姉妹には、法律上、遺留分という権利はありません)。
まだ最高裁の判例が確立されていませんが、2回目以降の受益者の交代、つまり第二受益者・第三受益者等(ここでいうと長男Aとその嫁Y)の死亡においては、遺留分の問題は考慮に入れる必要はないという説が有力となっています。
家族信託の典型的活用事例 10
- 事例1. 認知症による資産凍結を回避しつつ相続税対策を完遂したい
- 事例2.子のいない長男夫婦を経由しつつ財産を確実に孫(直系)に渡したい
- 事例3.認知症の妻に財産を遺した上でその次の資産の承継者も指定したい
- 事例4.唯一の不動産を兄弟で平等相続させつつ将来のトラブルも防ぎたい
- 事例5.共有不動産を巡るトラブル防止策~兄弟で共有する不動産の塩漬け防止~
- 事例6.中小企業の事業承継対策と大株主の認知症対策
- 事例7.株式を後継者に生前贈与しながらも経営権を保持する事業承継策
- 事例8.空き家となる実家の売却と売却代金の有効活用をしたい
- 事例9.遺言の書換え合戦を防ぎ生前の遺産分割合意を有効に
- 事例10.親なき後も障害のある子を支えつつ円満な資産承継を実現したい