11. 任意後見

成年後見制度とは

「成年後見制度」は、認知症や精神障害、知的障害等により判断能力が不十分な方のために、本人に代わって法律行為をしたり、財産を管理したりすることで、本人が安心して社会で生活することができるようにするための制度です。あくまで本人のための制度であって、後見人は、本人にとって利益になるかという視点で後見人業務をすべき職責を負います。つまり、家族・親族(相続人)のための制度ではありませんので、後見制度の利用の下では「相続税対策」はできないというのが大原則となります。

法定後見

能力が低下・喪失してしまっている方に利用する制度で、裁判所が後見人を決定する。

任意後見

元気な時に将来の判断能力低下時に備え、後見人への就任を契約でお願いしておく制度。本人の希望を尊重するため契約の相手方は、ほぼ確実に後見人に就任できる。

成年後見人になれる人

  1. 後見人等になるための資格は特になし(未成年者は不可)。
  2. 必ずしも親族である必要はなく、第三者(司法書士・弁護士・社会福祉士)がなるケースも多い。
  3. 複数人で就任することも可能。但し、一旦就任すると簡単には辞任できない。

任意後見とは

「成年後見制度」には、「法定後見」「任意後見」があります。
認知症、知的障害、精神障害などで判断能力がすでに低下している方には、「法定後見制度」が利用できます。

一方、「任意後見制度」とは、本人がまだ契約締結や財産管理に必要な判断能力を十分に有している間に、将来認知症になった場合等判断能力が低下・喪失する時に備えて、予め信頼できる人に自分に代わって様々な契約や財産管理等を任せる内容の契約を事前に締結しておく制度です。つまり、「自分の老後は自分で決める」という(難しい言葉で言うと「自己決定権の尊重」といいます)積極的な考え方に基づく制度です。

具体的には、現在は家族や他人の援助を受けないで元気に自分の力で生活できている人が、将来は誰かの生活支援(様々な契約や財産管理)を受けたいと考えた時、自分の老後の支援をしてもらいたい人との間で事前に「契約」を結んでおき、生活支援が必要となった時に家庭裁判所に申立をして契約を発動する仕組みです。

任意後見契約は、本人と信頼できる人(任意後見受任者)との間で交わしますが、これは必ず公証人役場において“任意後見契約公正証書”にしなければ契約の効力が発生しません。
契約の内容は、本人の判断能力が低下・喪失した状況における、本人の生活・療養看護・財産管理等に関する事務で、そのための代理権を将来の任意後見人に与えておく仕組みになります(事務の範囲・内容は、本人と任意後見受任者との間で自由に決められます。ただし、結婚・離婚・養子縁組などの一身専属的な権利については、任意後見契約に盛り込むことはできません。)。
そして、任意後見契約が締結されると、この内容が法務局に“後見登記事項”として登記されます。

なお、登記される事項は、任意後見監督人の選任前、つまり任意後見契約が発効していない段階であれば、下記のとおりとなります。
(A) 本人の住所氏名
(B) 任意後見受任者の住所氏名
(C) 代理権の範囲

また、任意後見監督人の選任(=任意後見契約の発動)後に登記される事項は、下記のとおりとなります。
(a) 本人の住所氏名
(b) 任意後見人の住所氏名
(c) 任意後見監督人の住所氏名
(d) 代理権の範囲

判断能力の低下・喪失がみられた時点で、本人や任意後見受任者等が家庭裁判所に申し立てをして、任意後見監督人を選任してもらいます。この任意後見監督人の選任をもって、任意後見人の代理権が発生(任意後見契約が発効)することになります。
実務的には、判断能力が「100%ではない」旨の医師の診断書があれば、申立てをすることが可能となりますので、判断能力が完全に無くならないと利用できない訳ではありません。ただし、本人に判断能力が残っている段階で利用するには、本人の承諾が必要になりますので、任意後見受任者が勝手に手続きを進めることはできません。

任意後見契約が発動されると、その後は任意後見人が本人に代わって財産管理等の後見事務を行い、それを任意後見監督人がきちんと仕事をしているかチェックします(任意後見制度においては、直接的に家庭裁判所が関与するのではなく、任意後見監督人による監督業務の報告・相談を通じて家裁が関与するにとどまります)。

任意後見のメリット・問題点

メリット

  • 任意後見人受任者(任意後見契約の当事者)が確実に就任できる
  • 信頼できる人に身を任せ、本人の意思を最大限尊重した生き方ができる
  • 申立てから就任(審判確定)までが比較的短期間 → 不動産売却・施設入所等に便利
  • 後見人の報酬を自由に設定できる
  • 居住用不動産でも家庭裁判所の売却許可が不要

問題点・限界

  • 代理権しかないので、本人が行った法律行為の取消し不可
  • 3~4ヶ月に1回の監督人への後見報告義務の負担
  • 任意後見監督人への報酬(月額1~3万円程度)が必ず発生する
  • 法定後見と同様、相続税対策(暦年贈与や資産の組換えなど)の計画実行はできない
  • 任意後見契約を公正証書にする手間がかかる

上記のメリット・デメリットを踏まえ、下記のような方が利用するのがお勧めです。

㋐ 将来の生活支援を同居する長男に託したいが、子供たちの仲が悪いので、法定後見だと、(他の兄弟からの反対意見が出れば)将来長男が確実に後見人に就任できるとは限らない
任意後見で確実に長男が後見人になれるようにする

㋑成年後見制度に代わる財産管理の方策として「家族信託」(例えば長男を受託者として財産管理を託す仕組み)を導入したが、それを快く思わない他の兄弟(例えば長女)が成年後見制度による財産管理を望んだ場合でも、親に託された長男側が主導権をもって引き続き生活支援をできるようにしたい
信託受託者となっている長男が任意後見受任者を兼ねることで、成年後見制度を利用すべく長女が法定後見の申立をしても、任意後見契約が優先されるので、結局任意後見人も長男が就任することで、親が望む長男による生活支援体制を維持できる。

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